「利害関係人」とは?(H26改正)

2014年12月20日 20:52

 特許庁が「無効審判における請求人適格に関する運用(案)に対する意見募集」を始めました。

 今年の口述最終日の特許法のテーマが「被告適格、請求人適格、冒認」でしたので、「請求人適格」は要注意事項になります。

 まず、無効審判の請求人適格の規定の変遷をおさえておくことが重要です。複数回の改正を絡めて趣旨が訊かれる可能生があります。

(1)旧法 「利害関係人」
(2)H15改正前 規定なし
(3)H15改正後(現行法) 「何人」

[123条2項] 特許無効審判は、何人も請求することができる。ただし、特許が前項第二号に該当すること(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由とするものは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者に限り請求することができる。

(4)H26改正後 「利害関係人」

【改正法】 特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。

 H15改正前の「規定なし」の理由は、青本19版に記載があります。キーフレーズは再現できるようにしておきましょう。

青本19版
 旧法においては利害関係人という要件があるために無効審判においてしばしば利害関係の有無が争われ、この争いのために数年を要することも稀ではなかった。しかも、利害関係の有無が争われている間は本案の審理にははいらないのであるから、被請求人が利害関係についての争いを審理を遅延せしめるために利用することすらあった。(そこで)現行法制定時においては利害関係についての規定を削除(した)。

 H15改正において、異議申立制度が無効審判制度に包摂された際に、無効審判の請求人適格として「何人」と規定されました。そして、H26年改正で、「利害関係人」の請求人適格要件が「復活」することになります。

 論文対策としては、上記の経緯(特に、請求人適格を変更した理由)をおさえておくことが重要です。また「利害関係人」の定義も、正確に再現できるようにしておきましょう。審査便覧と今回の意見募集では、少々定義が異なりますが、趣旨は同じと考えてよいと思います。

<今回の意見募集の「利害関係人」の定義>
 無効審判を請求し得る利害関係人とは、特許(商標)権などの存在によって、法律上の利益や、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、又は受ける可能性のある者をいう。

<審判便覧の「利害関係人」の定義>
 特許(登録)の無効審判における利害関係人とは、当該特許権などの存否によって、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、又は受ける可能性のある者をいう。

 最後に、審判便覧との対比において、注意が必要な点を列挙しておきました。狙われやすい点ですので、しっかりと、勉強しておきましょう。

<今回の意見募集より>
①被請求人が利害関係について争わない場合は、利害関係について調査を行わない。被請求人が利害関係について争う場合であって、請求人が利害関係を有することが合議体において明らかであるときは、合議体は、請求人に釈明を求めることなく審理を進める。

 H15改正前の「規定なし」とした理由に対する対策(運用)が採られています。「請求人が利害関係を有することが合議体において明らか」な場合は、「請求人に釈明を求めることなく審理を進める」こととしています。

②審判請求人が、これら(1)~(7)の類型のいずれかに該当するときは、通常は利害関係を有すると考えることができる。
 (1)-(6)省略
 (7) 当該特許発明に関し、特許を受ける権利を有する者


 「特許を受ける権利を有する者」は、審判便覧には例示がありません。口述3日目の特許法のテーマでもありますので、「特許を受ける権利」を有する者の無効審判請求の請求人適格については、しっかりと勉強しておきましょう。

③上記類型(1)~(7)に該当するような場合であっても、当該特許権等について紛争の和解が成立した者については、利害関係を有するとは認められない。

 「紛争が和解」した設定での設問は、今まで見たことはありませんので、軽く押さえておく程度で良いでしょう。

 「背理」に関連した論点として、『「専用実施権者」や「通常実施権者」にも無効審判の請求人適格があるのか?』といった論点がありますが、審判便覧と意見募集共に、これらの者にも無効審判の請求人適格を認めています。

④当該特許権に係る特許異議申立人については、特許を維持すべき旨の決定がなされたということのみでは無効審判の請求人適格は認めず、別途、請求人適格の有無(典型的には上記類型(1)~(7)に該当するか否か)を判断する。

 無効審判の請求人適格が無い者が、例えば代理で異議申し立てを行い「特許を維持すべき旨の決定」がされたとしても、その者は利害関係人にはなれない点、短答で狙われるかも知れませんね。

情報ソース
https://www.jpo.go.jp/iken/mukoushinpan_141218.htm
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan_binran/31-02.pdf