「松右衛門帆」の拒絶理由は?
まず、記事からの引用文を読んでみましょう。
『 同協会は13年12月に商標登録を出願。「松右衛門は広く認知されている」として一度は認められなかったが、「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた」との文言を入れ、独自性を明確にしたところ、14年8月に登録された。異議申立期間を経て、このほど正式に効力が発生したという。』
さて、拒絶理由は何条でしょうか? ・・・さっぱり解りませんよね。
後でIPDLの情報を追加して再検討しますが、ちょうどよい「題材なので」、まずは、とっても重要な「弁理士の論文本試の採点者は何を見ているのか?」について説明します。
答えは「言葉使い」です。法律用語(条文に出てくる言葉、言い回しなど)を正しく使っているかどうかです。採点中に積極的にチェックしている訳ではないのですが、読み進んでいく中で「違和感を感じる」言葉使いがあると、それだけで心証は相当悪くなります。論述力がどうかという前に、言葉使いが素人だと、それだけでアウトです。
上記の引用文を読む過程で、より多くの箇所で違和感を感じられた方は、より合格が近いレベルにあると思います。みなさんは、何か所、違和感を感じましたか?
私が強く違和感を感じたのは、以下の4つです。商標法の条文や青本には、このような表現は一度も出てきません。一度も出てこないので、このような表現に「遭遇」すると、自然に違和感を感じるのです。
・商標登録を出願
・広く認知
・独自性
・正式に(な)効力
注意してもし切れない内容ですが、やるべきことは、条文(+青本)の読み込みです。時間をかけて、条文(+青本)の読み込みを行うことを強くお勧めします。
それでは、拒絶理由の検討に移りましょう。IPDL情報は以下です。
【登録番号】 第5689999号
【出願日】 平成25年(2013)12月27日
【商標(検索用)】 松右衛門帆
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
16 工楽松右衛門の創製した帆布を用いた筆箱,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた文房具類,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた写真立て
18 工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた袋物,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた携帯用化粧道具入れ,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん用の金具,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたがま口用の口金
24 工楽松右衛門の創製した帆布,工楽松右衛門の創製した帆布を用いた布製の身の回り品,工楽松右衛門の創製した帆布製のランチョンマット,工楽松右衛門の創製した帆布製のコ-スタ-,工楽松右衛門の創製した帆布製のテーブルナプキン,工楽松右衛門の創製した帆布製の椅子カバー,工楽松右衛門の創製した帆布製の壁掛け,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたカーテン,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたテーブル掛け,工楽松右衛門の創製した帆布を用いたどん帳,工楽松右衛門の創製した帆布製のトイレットシートカバー
「図形+文字」の商標(マーク)です。記事には『「工楽松右衛門の創製した帆布を用いた」との文言を入れ』とありますので、指定商品を限定する補正をしたようです。
さらに、記事には、『「松右衛門は広く認知されている」として一度は認められなかったが』とあります。「認知」は正しくは「認識」でしょうが、拒絶理由は4条1項10号でしょうか? 3条1項1号(普通名称)でしょうか? それとも4条1項8号でしょうか?
他人の周知商標があるという事実はないようなので4条1項10号ではないでしょう。図形+文字商標ですので3条1項1号もありません。松右衛門は故人ですから4条1項8号も該当しません。
難しいですね。。。
指定商品を限定補正していることから、素直に考えると、4条1項16号だと思います。おそらく、『「松右衛門は広く認知されている」として・・・』は、正しくは、『「松右衛門は広く認知されているので品質誤認のおそれがある」として・・・』ではないでしょうか。
つまり、文字商標として「松右衛門帆」が含まれているので、工楽松右衛門の創製した帆布を用いていない「筆箱」や「文房具類」等との関係で、で品質誤認を生じると判断されたものと考えられます。
情報ソース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150107-00000006-kobenext-l28
https://www1.ipdl.inpit.go.jp/syouko/TM_DETAIL_B.cgi?1&1&1&1&1&142063426521985905443598