同一発明の異日出願

2021年09月10日 09:26

発明イに係る出願の帰趨が問われ、発明イと同一発明に係る他人の先願が存在する場合の条文列挙について考えてみましょう。

同一発明の先後願関係ですので、特39条を挙げる必要がありそうです。

第三十九条 同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。


注意が必要なのは、先願の地位についての改正(平成10年)で、同条5項が改正された点です。

5 特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から前項までの規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その特許出願について第二項後段又は前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。


ここで改正趣旨をおさえておきましょう。


青本39条:
放棄された出願、又は拒絶査定が確定した特許出願は引き続き先願としての地位を有することとなっていた。しかしながら、改正前の制度においては、公開される前に拒絶査定又は審決が確定した出願、または放棄された出願に与えられる効果が、公開された後に拒絶査定又は審決が確定し、または放棄された出願に与えられる効果との関係で大きすぎ、バランスを欠くものとなっていた。すなわち、出願公開されていないので、その発明の第三者の利用に全く貢献していないにもかかわらず、第三者が発明を出願し公開した場合に、第三者が独占権を得ることを妨げることができる。さらに、第三者が同じ発明に想到せず、技術が秘密に保たれれば、無期限にその発明を独占できることとなる。


先願の帰趨により、39条適用に影響がでることになり、この点に関連して、審査基準では以下のように説明がされています。


特許法審査基準:「4. 第39条の要件についての判断に係る審査の進め方」
第39条は本願発明と先願発明又は同日出願発明とが同一である場合に適用されるものであり、他の出願の特許(実用新案登録)請求の範囲についての補正により、先願発明又は同日出願発明の内容は、変更される可能性がある。他方、第29条(新規性及び進歩性)を本願に適用する場合の引用発明には、そのような変更の可能性がない。また、第29条の2(拡大先願)により本願を排除できる範囲は、先願の出願当初の明細書、特許(実用新案登録)請求の範囲又は図面であり、第39条よりも広く、補正によって変動することもない。このことから、以下の(1)又は(2)のように、第29条又は第29条の2の規定を本願に適用できる場合は、審査官は、第39条の規定を本願に適用せずに、それらの規定を本願に適用する。

(1) 先願について、本願の出願前に出願公開に係る公開特許公報の発行、特許掲載公報の発行又は実用新案掲載公報の発行がなされている場合は、これらの公報に記載又は掲載された発明は第29条第1項第3号の発明に該当することから、審査官は、第39条の規定を本願に適用せずに、第29条の規定を本願に適用する。

(2) 第29条の2の規定が本願に適用される場合は、審査官は、第39条の規定を本願に適用せずに、第29条の2の規定を本願に適用する。


さらに、39条適用については、審査基準では、以下の説明がされてます。

審査基準(39条):
他の出願と本願との間で、(i)出願日が同一の場合、(ii)出願人が同一の場合又は(iii)発明者(考案者)が同一の場合は、第29条の2は本願に適用されない。したがって、このような場合に、審査官は、第39条の本願への適用について検討する。


実務上は、「29条→29条の2→39条」の順で検討する、と理解できます。


弁理士試験では、3つの条文列挙が最低限必要で、他の受験生との差別化を狙うなら、後願の出願時期の場合分けをしつつ、適用条文の説明をするといった流れが良いでしょう!


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