遡及効が無い補正?

2021年08月25日 10:00
出願の分割制度を活用する場面において、特許法と商標法で「補正の効果」に違いが生じるケースがありますので、その点を確認することにしましょう。

まず、特許法では、補正可能時期に合わせて分割が認められおり(特44条1項1号)、新たな出願は実態要件を具備すれば遡及効が得られます(特44条2項)。


特許法 第四十四条
特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。

(2号、3号省略)
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。(ただし書以下省略)


また、もとの出願明細書等の補正については、新たな特許出願と同時に行う旨が規定されています(特施規30条)。

特許法施行規則 第三十条
特許法第四十四条第一項第一号の規定により新たな特許出願をしようとする場合において、もとの特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を補正する必要があるときは、もとの特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正は、新たな特許出願と同時にしなければならない。


一方、商標法では、「出願の分割ができる時期(商10条1項)」と「補正ができる時期(商68条の40)」ではズレがあります。具体的には、裁判所に係属している場合の分割を許容している一方、補正(68条の40)の規定がありません。


商標法 第十条
商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合であつて、かつ、当該商標登録出願について第七十六条第二項の規定により納付すべき手数料を納付している場合に限り、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな商標登録出願は、もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。(ただし書き以下省略)

商標法 第六十八条の四十
商標登録出願、防護標章登録出願、請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる。


ここで、商標法施行規則22条2項で特施規30条を準用しています。

商標法施行規則 第二十二条 
2 特許法施行規則第二十六条第三項から第六項まで、第二十七条第一項から第三項まで、第二十七条の四第一項、第三項及び第四項、第二十八条及び第三十条(信託、持分の記載等、パリ条約による優先権等の主張の手続、特許出願の番号の通知及び特許出願の分割をする場合の補正)の規定は、商標登録出願又は防護標章登録出願に準用する。(以下省略)


この点に関しては、青本に関連する記載があります。

青本(商10条)
この改正により商標法条約(第七条⑴)に規定する分割の時期とも一致することとなるとともに、裁判所に係属している期間を除けば補正をすることができる時期(六八条の四〇)とも一致することとなって、分割も補正の一種であるとする特許出願の分割の場合と考え方の軌を一にすることができる。なお、分割に際してはもとの出願の補正が必要となるところ、その場合の補正は単に分割の体裁を整えるために必要な訂正であるので、商標法上の補正の時期の制限規定の制約を受けることなく、商標法施行規則(特施三〇条を準用)に基づき、これをすることができるものと解される。したがって、商標法上、補正のできる時期以外の時期にも分割できる場合があるが、このような観点から不都合が生じるわけではない。


青本には「不都合が生じるわけではない」と説明がされていますが、施行規則の「補正」の効果について争われた事件があり、以下のように判事されています。


【最判平成17年07月14日】eAccess事件
【要旨】拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。

「遡及効が無い補正がある」、ということでしょうかね。。。

弁理士試験の短答向けとしては、上記最高裁判決の結論(要旨)をおさえた上で「裁判所に係属している場合の分割は拒絶理由の対象となっていない指定商品等を分割する必要がある」と覚え、論文向けとしては以下の観点の再現による理由付けの練習を行っておくことをお勧めします!

【最判平成17年07月14日】eAccess事件
もとの商標登録出願については,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。

商標法68条の40第1項が,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合以外には補正を認めず,補正ができる時期を制限している趣旨に反することになる(最高裁昭和56年(行ツ)第99号同59年10月23日第三小法廷判決・民集38巻10号1145頁参照)。

拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。


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