間接侵害の趣旨は何処へ?
H27年度の短答本試、第40問(第4枝)に「間接侵害@意匠法」の問題が出題されています。
4 登録意匠に係る物品の製造に用いることができるが、他の物品の製造にも用いること ができる物を業として生産する行為は、その意匠が登録意匠であること及びその物がそ の意匠の実施に用いられることを知りながら行われれば、当該登録意匠に係る意匠権を 侵害するものとみなされる
H14年改正で、特許法・実用新案法では「主観的要件を導入した新たな間接侵害規定」が追加されました。
一方、意匠法では対応する規定の追加はされていません。青本における関連する記載は、以下の通りです。
<意38条@青本19版>
なお、特許法とは異なり、意匠法においては、主観的要件を導入した新たな間接侵害規定の追加は行わなかったため、客観的要件としての対象物について「専用品」に限定する規定が残された。
このように、青本には、改正で追加されたなかった「趣旨」は書かれていませんが、H14改正法解説書の方には、以下の様に記載されています。
<意38条@H14改正法解説書>
意匠法では、類似意匠の実施にも意匠権の効力が及ぶこと、平成10年の改正により部分意匠制度が導入されたこと等により、既に十分な権利保護が図られており、特許法、実用新案法の改正に合わせて更に間接侵害の成立範囲を拡張する必要性に乏しいと考えれられる。
「類似範囲にも権利が及ぶ点」と「部分意匠制度」を持ち出して「既に十分な権利保護が図られている」として、さらなる拡張の必要性の欠如を「趣旨」としていますが、「しっくりきていない」受験生も多いと思います。
たとえば、特徴的だが専用品でない「ハンドル(部品)」の意匠を含む「自転車(完成品)」に係る意匠権の所有者は、当該「ハンドル(部品)」の製造販売をする者を当該意匠権で権利行使できるのでしょうか?
完成品と部品とでは物品非類似ですので侵害は構成しないでしょう。意匠権が類似範囲にも及ぶとしても結論は変わりません。また、仮に意匠権がハンドル部分に係る部分意匠の意匠権だとしても、結論は変わりません。部分意匠に係る意匠権により部品の製造販売行為の差止等はできません。
青本19版で「趣旨」が書かれていない(削除された)のは、改正法解説書の内容に疑問を感じたのかも知れませんね。
情報ソース
https://www.jpo.go.jp/shiryou/hourei/kakokai/pdf/h14_kaisei/h14_kaisei_2.pdf