今年度の論文試験・意匠法は難問?

2018年09月02日 16:46

 今年度の論文試験は「意匠法が難しかった」という声を多く聞きますが、受験された方はどうでしたか?

 さて、今回は、H30論文試験・意匠法の「最後の問い」を取り上げて、「実施権と排他権」の理解を深めることにしましょう。

 まずは、意匠権の効力(意23条)の確認からです。


(意匠権の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。


 初学者は、対応する特許法68条の学習時に「特許権の効力=独占排他権=独占権と排他権」として教わることも多いのではないでしょうか。

 弁理士試験に臨む受験生の正しい理解としては「特許権の効力=実施権と排他権」との理解が重要で、意匠法も同様です。

 実施権と排他権の両方の権利を持つ者としては、意匠権者の他に専用実施権者が該当します。


 通常実施権者は、片方の権利、すなわち「実施権のみ持つ者」ということなりますが、「排他権のみ持つ者」は存在するのでしょうか?

 部分意匠に係る意匠権者の論点が存在しますが、一般的には、意匠法では、意匠権者は「実施権と排他権」の両方を持つことになります(排他権を持つ場合、実施権を所有)。


 ただし、所有している実施権が「制限」されることがあります。

 意26条の「利用関係」の場合です。ここで、意26条は実施権についての制限規定であり、「排他権についての制限規定では無い」点の理解が重要です。


(他人の登録意匠等との関係)
第二十六条 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。
2項省略


 以上が「実施権」と「排他権」の基本的な部分になりますが、理解できましたか?



 それでは、今年度の論文試験・意匠法の「最後の問い」について、問われている事項から確認していきましょう。

  甲: 家具用脚(部品)の意匠イの意匠権者
  乙: 意匠イを利用した椅子、テーブル(完成品)の意匠について製造販売の独占を希望する者

 上記の事例設定で、「椅子、テーブルの具体的な形状はまだ決まっていない段階での、乙が取り得る出願以外の手段」が問われています。


 ポイントを明らかにするために、「実施権」と「排他権」の両面から、上記事例を書き換えてみましょう。

  甲: 部品の意匠イの「実施権」と「排他権」を持つ者
  乙: 意匠イを利用した(将来の)完成品の意匠について「実施権」と「排他権」を持ちたい者


 そうすると、ポイントが見えてきます。

 完成品の「実施権」と「排他権」を持つために、乙は将来完成させた段階で意匠登録出願を行い意匠権を確保すべきで、また、利用関係から生じる「完成品の実施の制限を回避」するために、部品の意匠に係る権利の「実施権」を得ておく必要があります。


 以上、中上級者向けの解説になってしまいましたが、理解は深まりましたでしょうか?


 今年度の意匠法は「実施権と排他権の関係についての理解レベル」の確認としては「良問」です。「甲の排他権」については今回触れませんでしたが、どのように利用できるのか、皆さんも考えてみてください!


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