出願分割の"隠れた"要件とは?

2021年09月30日 10:19

特許出願の分割の実体的要件(主体・時期・手続き以外の要件)の当て嵌めについて確認していきましょう。

まず、条文の確認からです。


第四十四条 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。


44条1項柱書からは読み取れない要件(「分割の効果=遡及効」からくる要件)があり、この点、審査基準で詳細に説明がされています。


審査基準:2.2 特許出願の分割の実体的要件
特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、以下の(要件 1)及び(要件 3)が満たされる必要がある。また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると、以下の(要件 2)も満たされる必要がある。
(要件 1) 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。
(要件 2) 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。 
(要件 3) 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。 


上記3要件の検討が必要と説明ですが、審査基準では更に、「分割出願の時期」に応じて、検討を省略できる旨の説明がされています。


審査基準:
ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件 2)が満たされれば、(要件 3)も満たされることとする。これは、原出願の分割直前の明細書等に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書等に記載されていた事項については、補正をすれば、原出願の明細書等に記載した上で、特許出願の分割をすることができるからである。


ここで、「補正をすることができる時期」とは、以下になります。


審査基準(補正ができる時期):
2. 補正の時期的要件
 出願人は、以下の(i)から(v)までのいずれかの時期に、明細書等について補正をすることができる(第 17 条の 2 第 1 項)。
(i) 出願から特許査定の謄本送達前まで(ただし、拒絶理由通知を最初に受けた後を除く。)(第 17 条の 2 第 1 項)
(ii) 最初の拒絶理由通知の指定期間内(第 17 条の 2 第 1 項第 1 号) 
(iii) 拒絶理由通知を受けた後の第 48 条の 7の規定による通知の指定期間内(第 17 条の 2 第 1 項第 2 号) 
(iv) 最後の拒絶理由通知の指定期間内(第 17 条の 2 第 1 項第 3 号) 
(v) 拒絶査定不服審判の請求と同時(第 17 条の 2 第 1 項第 4 号) 


つまり、審査基準上は、44条1号類型の出願分割の場合は「要件3」の検討が不要ということになります。

さらに、審査基準では、「要件1」については、以下の説明を付け加えています。


審査基準:
(要件 1)は、通常、満たされている。
通常、明細書等からは多面的、段階的に様々な発明が把握されるから、明細書等には二以上の発明が記載されているといえる。原出願の明細書等に記載された二以上の発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされることとは、原出願の明細書等から把握されるあらゆる発明が分割出願の特許請求の範囲に記載されることである。しかし、そのようなことは通常考えられない。よって、(要件 1)が満たされていないことは、通常考えられない。したがって、単に分割出願の特許請求の範囲の記載が原出願の特許請求の範囲の記載と同一であることのみでは、(要件 1)が満たされていないことにはならない。


審査基準では上記のような説明がされてはいますが、「審査基準は法律ではありません」ので、弁理士試験対策としては、 要件定立と当て嵌めにおいては、「要件1」を含めた答案を行いましょう!


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