実質同一とは?

2021年08月29日 02:38

論文答練で「実質同一」を持ち出す答案が見受けれられます。初学者に多い傾向がありますので、ここで定義等を確認しておきましょう。

審査基準では5か所で使用されています。条文は29条の2と39条です。
まず、29条の2の説明を確認していきましょう。


審査基準29条の2:

3.2 本願の請求項に係る発明と引用発明とが同一か否かの判断

審査官は、本願の請求項に係る発明と、引用発明とを対比した結果、以下の(i)又は(ii)の場合は、両者をこの章でいう「同一」と判断する。 
(i) 本願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がない場合 
(ii) 本願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合 

ここでの実質同一とは、本願の請求項に係る発明と引用発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう。


「周知・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものでない」場合に、実質同一として、29条の2の「同一」対象を拡大しているのがわかります。

次に、39条はどうでしょうか?


審査基準39条:

3.2 本願発明と他の出願の請求項に係る発明等とが同一か否かの判断
3.2.1 他の出願が先願である場合

審査官は、本願発明と、先願の請求項に係る発明等(以下この章において「先願発明」という。)とを対比した結果、以下の(i)又は(ii)の場合は、両者を「同一」と判断する。 
(i) 本願発明と先願発明との間に相違点がない場合 
(ii) 本願発明と先願発明との間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合 ここでの実質同一とは、相違点が以下の(ii-1)から(ii-3)までのいずれかに該当する場合をいう。

(ii-1) 課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合
(ii-2) 先願発明の発明特定事項を、本願発明において上位概念として表現したことによる差異である場合
(ii-3) 単なるカテゴリー表現上の差異(例えば、表現形式上、「物」の発明であるか、「方法」の発明であるかの差異)である場合


29条の2における「実質同一」の範囲から、更に、「上位概念ー下位概念の関係」と、いわゆる「カテゴリー表現上の差異」まで、「同一」の対象を拡大しているのがわかります。


ちなみに、条文に「実質同一」の文言は一切登場しません。勿論、定義もありません。また、青本を対象に検索してみても「実質同一」はヒットしません。


弁理士の試験対策としては、条文にも青本にも記載が無いので短答ではおそらく出題はされないと思いますが、論文で「実質同一」を使う場合には、法律用語ではありませんので「いわゆる実質同一」として表現し、29条の2と39条の適用場面では、それらの定義(同一の範囲)が異なる点に留意した答案の方が無難でしょう!


おまけ:
判例検索で「実質同一」のキーワードで検索すると、存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力に関する大合議判決がヒットします。こちらについては、別の機会に勉強しましょう!

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