審査基準と判例、どちらがお好き?「結合商標の類否判断」

2018年09月09日 11:51

 審査段階における最高裁判決がでると審査基準が改訂されます。

 最近では、PBP(プロダクト・バイ・プロセス)クレームに関する最高裁判決後に特許法の審査基準の改訂が行われました。


<特許法審査基準:第 II 部 第 2 章 第 3 節 明確性要件>
4.3.2 物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合
 物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、その請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる。そうでない場合には、当該物の発明は不明確であると判断される。(参考) 最二小判平成 27 年 6 月 5 日(平成 24 年(受)1204 号、同 2658 号)「プラバスタチンナトリウム事件」判決


 PBPクレームの要件「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載」や、原則は「不明確である」点、例外としてのキーフレーズ「出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとき」が簡潔にまとめられています。


 商標法においても同様で、例えば、4条1項15号の「混同(広義の混同)」についての解釈基準は最高裁判例がベースとなっています。


<商標法審査基準:十三、第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)>
1.「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について
(1) その他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合をもいう。


 元となった判例は「レールデュタン事件」です。

<レールデュタン事件>
 商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。


 このように、最高裁判決で判示された基準が審査基準に反映されているのが分かります。


 さて、商標法の論文試験では「結合商標の類否判断」が問われる事例が出題されていますが、審査基準ではどの条文でその基準が示されているのでしょうか?


 審査基準の勉強が進んでいる受験生は判ると思いますが、4条1項11号で「結合商標の類否判断」の考え方が示されています。


<商標法審査基準:十、第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)>

「4.結合商標の称呼、観念の認定及び類否判断について」から抜粋

(1) 結合商標の称呼、観念の認定について
(ア) 結合商標は、商標の各構成部分の結合の強弱の程度を考慮し、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものと認められない場合には、その一部だけから称呼、観念が生じ得る。

(イ) 結合の強弱の程度において考慮される要素について
文字のみからなる商標においては、大小があること、色彩が異なること、書体が異なること、平仮名・片仮名等の文字の種類が異なること等の商標の構成上の相違点、著しく離れて記載されていること、長い称呼を有すること、観念上のつながりがないこと等を考慮して判断する。


(2) 結合商標の類否判断について

(ア) 結合商標の類否は、例えば、次のように判断するものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。

① 識別力を有しない文字を構成中に含む場合
 指定商品又は指定役務との関係から、普通に使用される文字、慣用される文字又は商品の品質、原材料等を表示する文字、若しくは役務の提供の場所、質等を表示する識別力を有しない文字を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似する。

② 需要者の間に広く認識された商標を構成中に含む場合
 指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除く。


 それでは、「結合商標の類否判断」に関する基準を示した最高裁判例はご存知ですか?

 弁理士試験で学習すべき判例は2つあります。リラ宝塚事件とつつみのおひなっこや事件です。


<リラ宝塚事件>
「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によつて称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによつて簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである。」


<つつみのおひなっこや事件>
「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである。」


 受験生にとって悩ましいのが、「結合商標の類否」に関する問題が出た場合に、解釈基準として、審査基準と判例のどちらを持ち出すか? といった点です。

 問われている論点の「深さ」により使い分けをするのも良いでしょうし、判例のキーフレーズを再現し、審査基準の判断基準を示して結論に導くのでも良いでしょう。

 この機会に、2つの最高裁判例と、審査基準の内容の比較をしつつ、「結合商標の類否判断」についての理解を深めておくことをお勧めします。


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