拡大先願/準公知

2021年08月17日 17:38

受験生泣かせの条文に特29条の2(拡大先願/準公知)があります。出願から公開までの1年6月の間に「同一」の出願がされるといった少々レアケースかと思いますが、特に外国出願の実務で遭遇した場合、国内の特許法と国外(欧州、中国等)とでは要件が異なるため、かなり厄介な問題になります。

以下、国内外で異なる「除外要件」と「同一(要件)」に焦点を当てて、確認して行くことにしましょう。


第二十九条の二
特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない


まず、除外要件については、青本に丁寧な説明がされています。


青本:
本文中の括弧内及びただし書は、自分が発明したものまたは自分が出願したものによって拒絶されることがないように規定したものである。一般的には、明細書の詳細な説明の欄に記載し、請求の範囲には記載しなかったという発明については、出願人はその発明について特許を請求しない。いいかえれば公衆に開放するという意思であるとみられるが、中には必ずしもそういう場合だけでなく、その出願の請求の範囲に記載された発明の説明にどうしても必要なために詳細な説明の欄で特定の技術を記載し、その特定の技術については後日別に出願して特許権を得たいというものがある。こういう場合には、後に本人が出願すれば特許が受けられるようにしないと困るのでその旨を規定した。また、他人が発明したものを見てそれと関連のある技術を開発し、それを請求の範囲として出願し、他人の発明を自分の発明の説明のために明細書に記載している場合にも、その他人が後に出願した場合は拒絶しないこととした。

「一般的には、・・・」と表現されているように、国内法では発明者保護に傾けた規定になっていることが分かります。


次に、「同一」についてですが、国内法では青本には説明がありませんが、審査基準にて「実質同一」まで拡大解釈がされる運用になっているのが分かります。

審査基準(29条の2)
審査官は、本願の請求項に係る発明と、引用発明とを対比した結果、以下の(i)又は(ii)の場合は、両者をこの章でいう「同一」と判断する。 

(i) 本願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がない場合 
(ii) 本願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合 

ここでの実質同一とは、本願の請求項に係る発明と引用発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう。


弁理士試験(論文)対策としては、例えば「特29条の2について、(1)除外要件(発明者同一、出願人同一)を設けるべきではないとする立場、および(2)除外要件を設けるべきとする立場のそれぞれについて説明せよ」といった問題が出た場合は、青本の再現で乗り気ましょう!

おまけ:
弁理士試験は、出題範囲が国内法に限られていますので、国外の法令との差異を書く必要はなく、逆に心証を悪くすると思いますので、書かないように!

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