特許を受ける権利

2021年08月14日 14:06
特許を受ける権利(29条1項柱書)の帰属を確認することは、出願時において極めて重要なポイントです。特許を受ける権利を有しない者がした出願は拒絶され(49条7号)、過誤登録されても無効理由を有することになります(123条6号)。

平成27年に、職務発明の規定(35条)が大幅に改正されましたが、「特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属する」という原則は変わっていません。35条3項は、この原則の例外を規定しています。

第三十五条
3 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。

職務発明に該当し(要件は35条1項かっこ書)、かつ、使用者等に当該権利を取得させる旨の定めの存在が必要で、この要件に合致しない場合は、原則通り「特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属する」ことになります。

特35条3項の改正趣旨は、青本に記載があります。

青本 特35条3項
平成二七年の一部改正で新たに設けた三項は、特許を受ける権利をあらかじめ定めた契約等で使用者等が取得することを定めている場合には、当該特許を受ける権利が発生した時、すなわち従業者等が職務発明を生み出した瞬間から、その特許を受ける権利は当該使用者等に帰属することを可能とした規定である。特許を受ける権利が共有に係る場合の問題や二重譲渡問題といった権利帰属の不安定性問題を解消することを目的としている。

「特許を受ける権利が共有に係る場合の問題や二重譲渡問題」の解消が改正の目的になりますが、青本の説明は非常に薄く、具体例での説明がされていません。

この点、平成27年の改正法解説書では、より詳しく説明がされています。

改正法解説書 特35条3項
使用者等に特許を受ける権利がその発生時から帰属する旨特許法上に規定することで、共同研究の場合、特許法上は共同発明者たる従業者等から当該従業者等の所属する使用者等への譲渡ではなく、職務発明について特許を受ける権利の発生時から当該使用者等にその権利の持分が帰属する。
したがって、第33条第3項との関係においても共同研究の相手方の従業者等の同意を必要とすることなく、共同発明者たる従業者等の権利の持分が使用者等に帰属することとなる。また、従業者等は初めから特許を受ける権利の権利者たる特許法上の地位にないこととなるため、(1)発明者たる従業者等本人が出願したとしても拒絶査定がなされ(特許法第49条第7号)、(2)仮に第三者が発明者たる従業者等から特許を受ける権利を譲り受けたとして出願したとしても、二重譲渡は成立しない。これらの場合にはいわゆる冒認出願として処理されることとなるので、第34条の適用はなく、二重譲渡問題は発生せず、帰属の不安定性問題は解消する。

弁理士試験の勉強法としては、改正法解説書にしか書かれていない内容がありますが、最初から改正法解説書に当たると大変ですので、条文の理解を深めるために先ずは「青本」の読み込みを優先し、青本の説明では理解できない改正マターがある場合に、改正法解説書に当たるようにすると良いでしょう。

おまけ:
冒頭で、いわゆる冒認出願は拒絶される(49条7号)と書きました。
「審査官が冒認を判断できるのか?」といった疑問は残りますが、条文上はそのようになっていますので、素直に条文に沿った回答を心がけることが大切です!

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