空虚な権利?

2021年10月08日 11:21


特許権の効力は68条に規定されています。

第六十八条 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。


「ただし書」については、青本に説明がされています。

青本:
ただし書は、特許権について専用実施権を設定した場合は、その設定行為で定められた範囲において特許権者の独占的な地位は失われる旨を規定したものである。たとえば、特許権について関東地区の専用実施権が設定された場合は、その関東地区において、特許権者は自ら特許発明を実施できなくなるわけである。また、特許権の存続期間のうちの一定期間(三年とか五年とか)について専用実施権を設定した場合は、その期間において、特許権者は自ら特許発明を実施できなくなるわけである。


さらに、青本では、特許権と専用実施権の関係について、土地の所有権と地上権の関係に似ている点指摘しています。

青本(続き):
この関係は土地の所有権と地上権との関係に類似している。


特許権者が持つ「使用」「収益」「処分」権の内、「使用」「収益」権を専用実施権に渡すイメージです。

また、青本では、特許権の「実施権」と「いわゆる排他権」の観点で、最高裁判例を取り上げています。


青本(続き):
なお、最高裁判所(最判平成一七年六月一七日民集五九巻五号一〇七四頁)は、特許権者は、専用実施権を設定したときであっても、差止請求権を失わないと判示している。


青本の記載が薄いので、判例に当たって、その理由について確認しましょう。

【最判平成17年06月17日】リガンド事件:
【要旨】特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができると解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。

 特許権者は,特許権の侵害の停止又は予防のため差止請求権を有する(特許法100条1項)。そして,専用実施権を設定した特許権者は,専用実施権者が特許発明の実施をする権利を専有する範囲については,業としてその特許発明の実施をする権利を失うこととされている(特許法68条ただし書)ところ,この場合に特許権者は差止請求権をも失うかが問題となる。特許法100条1項の文言上,専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠はない。また,実質的にみても,専用実施権の設定契約において専用実施権者の売上げに基づいて実施料の額を定めるものとされているような場合には,特許権者には,実施料収入の確保という観点から,特許権の侵害を除去すべき現実的な利益があることは明らかである上,一般に,特許権の侵害を放置していると,専用実施権が何らかの理由により消滅し,特許権者が自ら特許発明を実施しようとする際に不利益を被る可能性があること等を考えると,特許権者にも差止請求権の行使を認める必要があると解される。これらのことを考えると,特許権者は,専用実施権を設定したときであっても,差止請求権を失わないものと解すべきである。


弁理士試験対策とてしては、専用実施権を設定しても特許権者は差止請求権(排他権)は失わないとの結論と、2つの理由について再現できるよう準備しておくことをお勧めします!

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