職務発明の改正前に狙われる条文は?

2014年10月18日 16:59
  特許を受ける権利を「法人に帰属」させることに争いはなく、その帰属過程として「原始的に法人に帰属」させるのか、あるいは「原始的に発明者に帰属させた後に法定譲渡」させるのかといった論点がありました。
 
 結局、「原始的に法人に帰属」させる方向で最終調整に入ったようです。著作権法の15条ライクの規定になるのでしょうか。
 
[著15条] 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
 
 さて、産業界全体で話題になっている職務発明制度の改正です。弁理士試験での出題の可能性は高いと思いますが、35条自体の改正はほぼ決まりですから、現行条文(35条)での出題の可能性は低いと考えられます。
 
 では、関連条文として来年度の本試験で問われる可能性があるのは何条でしょうか?
 
[33条3項] 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。 
 
[34条1項] 特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない。
 
 33条3項と34条の理解レベルを高めておくことをお勧めします。世間一般のニュースでは「職務発明制度の改正は、訴訟リスク低減目的」と報じられていますが、実際はそれだけではありません。「権利帰属の不安定性の問題」へ対応するための改正でもあります。
 
 具体的には「共同発明時の権利譲渡の問題」と「二重譲渡の問題」ですが、それぞれ、33条3項と、34条1項で規定されています。33条3項は実務上も重要な条文ですね。34条1項が「二重譲渡」を規定していると説明すると理解できないかも知れませんが、特許法は二重譲渡を「予定」していて、その場合の権利関係を34条1項で調整していることになります。
 
 職務発明に係る特許を受ける権利が「原始的に法人帰属」となった場合でも、33条3項と34条1項は、そのまま残ると思います。従業者と使用者間の権利譲渡の調整は無くなりますが、例えば、ある企業が別の企業へ開発や研究を委託した場合の特許を受ける権利の帰属関係の調整が必要になるからです。
 
 また、「権利帰属の不安定性の問題」以外には、「特許を受ける権利の原始帰属主体」と「発明者掲載権」の2つの側面から、著作権法の構造(財産権と人格権)との相違を理解することも重要です。特許を受ける権利が発明者に原始的に帰属する国には日本の他に米国やドイツがあり、使用者に原始的に帰属する国には英国やフランスがあります。後者の国であっても、発明者掲載権は発明者に帰属するとされています。発明者掲載権については判例チェックも忘れずにやっておきましょう。 
 
情報ソース
https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/newtokkyo_shiryou009/02.pdf
https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/newtokkyo_giji9.htm