間接侵害の独立説と従属説

2021年09月18日 09:13

平成18年の改正で、実施に「輸出」が追加されました。

第二条
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為


一方、いわゆる間接侵害(101条)では、輸出行為の追加はされていません。

第百一条 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為


この点に関して青本には記載がありませんが、H18年改正法解説書には以下の説明がされています。

H18改正法解説書:(補説2) 間接侵害規定との関係:
意匠法第38条、特許法第101条第1号、実用新案法第28条第1号は、自己の権利に係る物の製造にのみ用いる物の生産、譲渡等をする行為を「侵害とみなす行為」として規定している。属地主義の観点から、侵害品を海外で製造する行為は、我が国産業財産権法上の侵害行為ではないため、「製造にのみ用いる物」の輸出を侵害とみなすことは、侵害行為でない海外での製造行為の予備的行為を侵害行為としてとらえることとなり、適切でない。このため、「製造にのみ用いる物」の輸出行為は、「侵害とみなす行為」として規定しないこととした。


当該改正の前に出された関連判決に「製パン器事件」があり、同様な趣旨の判決がされています。

【大阪地判平成12年10月24日】製パン器事件
 したがって、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、日本国内におけるものに限られると解するのが相当であり、このように解することは、前記のような特許法2条3項における「実施」の意義にも整合するものというべきである。


また、同判決文で、以下のような「付言」がされています。

【大阪地判平成12年10月24日】製パン器事件
 なお付言するに、被告が製造、販売する権利2の対象被告物件の中には、日本国内で販売され、使用されるものも存在するが、製パン器という商品の性質からすると、それらの被告物件は主に一般家庭において使用され、その実施行為は特許法68条の「業として」の実施に該当しないものであるから、直接侵害行為を構成することがない。しかし、同法が特許権の効力の及ぶ範囲を「業として」行うものに限定したのは、個人的家庭的な実施にすぎないものにまで特許権の効力を及ぼすことは、産業の発達に寄与することという特許法の目的からして不必要に強力な規制であって、社会の実情に照らしてゆきすぎであるという政策的な理由に基づくものであるにすぎず、一般家庭において特許発明が実施されることに伴う市場機会をおよそ特許権者が享受すべきではないという趣旨に出るものではないと解される。そうすると、一般家庭において使用される物の製造、譲渡等(もちろんこれは業として行われるものである)に対して特許権の効力を及ぼすことは、特許権の効力の不当な拡張であるとはいえず、かえって、上記のような政策的考慮によって特許権の効力を制限した反面として、特許権の効力の実効性を確保するために強く求められるものともいえる。したがって、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、一般家庭におけるものも含まれると解するのが相当であり、このように解することは、特許法2条3項の「実施」自体の意義には一般家庭におけるものも含まれると解されること(一般家庭における方法の発明の使用が特許権の効力に含まれないのは、「実施」に当たらないからではなく「業として」に当たらないからである。)とも整合する。よって、権利2の対象被告製品のうち、日本国内で販売されるものの製造、販売は、特許法101条2号によって侵害とみなされる。


「間接侵害の成立に直接侵害が必要か否か」の論点があり、弁理士試験の論文で問われる可能性のある具体的な事例としては、専用部品の①輸出行為、②一般家庭への販売行為、③試験研究目的(69条1項)での実施者への販売行為、が想定されます。

①は条文ベース(101条1号、4号)で、②は製パン器事件の「付言」で述べられている結論と理由で回答するとして、③は事前に検討しておいて結論と理由を準備しておくことをお勧めします!


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