【名古屋地判平成17年04月28日】先使用権の援用

 一般に,特許法79条が先使用による通常実施権の制度を定めたのは,特許出願の際に,国内においてその発明と同一の技術思想を有していただけでなく,更に進んでその発明の実施である事業をしていたり,その事業の準備をしていた善意の者については,公平の見地から,出願人に特許権が付与された後においてもなお継続してこれを実施する権利を認めるのが相当と考えられたことによると解される。

 そうすると,ある発明について先使用権を有している製造業者が,先使用権の範囲内の製品を製造して販売業者に販売し,当該販売業者が同製品を販売(転売)するような場合においては,当該販売業者について先使用権の発生要件の具備を問うまでもなく,当該販売業者は製造業者の有する先使用権を援用することができると解するのが相当である。なぜなら,そのように考えないと,販売業者が製造業者から同製品を購入することが事実上困難となり,ひいては先使用権者たる製造業者の利益保護も不十分となって,公平の見地から先使用権を認めた趣旨が没却されるからである。

 もっとも,先使用権者たる製造業者の利益保護のためには,販売業者による同製品の販売行為が特許権の侵害にならないという効果を与えれば足りるのであって,製造業者が先使用権を有しているという一事をもって,販売業者にも製造業者と同一の先使用権を認めるのは,販売業者に過大な権利を与えるものとして,これまた,先使用権制度の趣旨に反することが明らかである。