すなわち,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すべきであるから,その解釈に当たって,特段の事情がない限り,明細書の特許請求の範囲の記載を意味のないものとして解釈することはできない。確かに,物の発明において,物の構造及び性質によって,発明の目的となる物を特定することができないため,物の製造方法を付加することによって特定する場合もあり得る。そして,このように,特許請求の範囲に,発明の目的を特定する付加要素として,製造方法が記載されたというような特段の事情が存在する場合には,当該発明の技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定することが,必ずしも相当でない場合もあり得よう。
本件についてこれをみると,①本件発明の目的物である止め具は,その製造方法を記載することによらなくとも物として特定することができ,構成要件Fは,本件発明の目的物を特定するために付加されたものとはいえないこと,②本件特許出願に対して,平成12年8月4日付けで,拒絶理由通知が発せられ,原告は,これを受けて,平成12年8月28日,特許庁に対して手続補正書を提出し,同補正により,構成要件Fを追加したこと(乙25,26,弁論の全趣旨)等の経緯に照らすならば,構成要件Fは,本件発明の技術的範囲につき,正に限定を加えるために記載されたものであることは明らかである。