【東京高判平成15年06月30日】減速機付きモーター事件

 しかしながら,意匠の保護は,最終的には産業の発達に寄与することを目的とするものであるから(意匠法1条),意匠保護の根拠は,当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ取引の対象とされる場合において,取引者,需要者が当該意匠に係る物品を混同し,誤って物品を購入することを防止すると同時に,上記取引者等の混同を招く行為を規制することにより意匠権者の物品流通市場において保護されるべき地位を確保することにあると解すべきである。そうすると,意匠権侵害の有無の判断に際しては,流通過程に置かれた具体的な物品が対象となるものというべきである。そして,本件においては,被控訴人が被控訴人製品を減速機部分とモーター部分とが一体のものとして製造販売していることは当事者間に争いがないし,前記のとおり,被控訴人製品の減速機部分は,ねじによりモーター部分と固定されているものであるから,結局,被控訴人製品において減速機部分は減速機付きモーターという物品の一構成部分にすぎないというべきである。したがって,被控訴人製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできない筋合いである。

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 しかしながら,意匠とは,物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美観を起こさせるものをいうのであるから(意匠法2条1項),外部から視覚を通じて認識できるものであることを要するものであり,また,前記のとおり,意匠保護の根拠は,当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ取引の対象とされる場合において,取引者,需要者が当該意匠に係る物品を混同することを防止することにあると解すべきであるから,結局,当該意匠に係る物品の流通過程において取引者,需要者が外部から視覚を通じて認識することができる物品の外観のみが,意匠法の保護の対象となるものであって,流通過程において外観に現れず視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状は考慮することができないものというべきである(なお,控訴人主張のとおり,意匠保護の根拠が「創作」であると解したとしても,それが必ずしも意匠権侵害の判断に当たり,物品の隠れた形状をも考慮すべきであるとの見解には結びつかない筋合いである。)。

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3 争点(5)(被控訴人製品における意匠の利用関係)について

 控訴人は,①他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を包含すること,②他の登録意匠の特徴を破壊することなく包含すること,③他の構成要素と区別しうる態様において包含すること,という要件を満たす限り,意匠の利用関係が認められると解すべきであるところ,この観点から見ると,被控訴人製品は本件登録意匠を利用ないし包含しているといえるから,本件意匠権を侵害しているというべきである旨主張する。

 しかしながら,控訴人の主張するように,利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても,前記認定のとおり,被控訴人製品の全体の構成態様においては,本件登録意匠の要部である前記ケーシングのモーター側端の具体的な形状(膨出部の背面視における形状全体)が外部から認識できないものであるから,被控訴人製品が本件登録意匠を利用ないし包含しているということはできない(なお,利用関係の判断においても,前記のとおり,当該意匠に係る物品の流通過程において取引者,需要者が外部から視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状は,考慮することができないものというべきである。)。