ところで,意匠法の目的は,意匠の保護及び利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与することにある(同法1条)。この目的にかんがみると,微小な物品であっても,工業的に同一の形状等を備えた物品として設計し,製作することが可能な場合には,その意匠につき保護を与えるべきものであり,殊に,微小な物品についての成形技術,加工技術が発達し,精巧な物品が製作され,取引されているという現代社会の実情に照らすと,意匠法による保護を及ぼす必要性は高いということができる。
他方,意匠に係る物品の形状等が,当該物品が取引される通常の状態において,視覚によって認識され得ないときは,意匠を利用するものとはいい難いから,意匠法の上記目的に照らし,同法の保護は及ばないと考えられる。
そうすると,意匠に係る物品の取引に際して,当該物品の形状等を肉眼によって観察することが通常である場合には,肉眼によって認識することのできない形状等は,「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たらず,意匠登録を受けることができないというべきである。しかし,意匠に係る物品の取引に際して,現物又はサンプル品を拡大鏡等により観察する,拡大写真や拡大図をカタログ,仕様書等に掲載するなどの方法によって,当該物品の形状等を拡大して観察することが通常である場合には,当該物品の形状等は,肉眼によって認識することができないとしても,「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たると解するのが相当である。
なお,このように解すると,肉眼によって認識し得ないものは常に意匠法上の意匠に当たらないとする意匠審査基準に反することとなる。しかし,取引の際に形状等を拡大して観察することが通常である物品の分野においては,拡大された態様で,当業者(その意匠の属する分野における通常の知識を有する者)に物品の形状等が認識され,当業者によって新たな意匠が創作されるとともに,カタログ等の刊行物に拡大図等が記載されると解される。そして,意匠出願の願書にも,拡大図等が添付されたり,意匠の大きさが記載されたりする(意匠法6条3項参照)から,特許庁において意匠法3条各項その他の意匠登録要件に該当するかどうかの審査等をする上でも,各別の支障は生じないと考えられる。