【知財高判平成18年03月31日】コネクター接続端子事件

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ウ 意匠法にいう「意匠」は 「視覚を通じて美感を起こさせるもの」であるから(同法2条1項1),物品の形状等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものでないときは,意匠登録を受けることができない。意匠法がこのように規定した趣旨は,物品の形状に係る考案(自然法則を利用した技術的思想の創作)が実用新案法による保護の対象とされること(同法1条)に照らし,物品の形状等が,専ら技術的思想に由来するものであって,美感とは無関係な場合には,意匠法により保護される「意匠」には当たらないとすることにあると解される。

また,意匠法2条1項が「視覚を通じて」と規定したことによれば,物品の形状等が美感を起こさせるとしても,視覚ではなく,触覚,聴覚等を通じて美感を起こさせるものであるときは,意匠法による保護は及ばないということができる。しかし,同項にいう「視覚」が肉眼により認識することに限られ,肉眼によって認識し得ない大きさの物品の形状等は同法により保護されないのか(なお 「肉眼」とは,広辞苑〔第5版〕によれば「肉体に備わっている眼球。眼鏡・望遠鏡などを用いない生来のままの視力」を意味するが,眼鏡やコンタクトレンズは,視力を日常的に補助する道具であり,対象物を拡大するためのものではないから,以下,眼鏡等を用いる場合も含めて 「肉眼」の語を用いる。) ,あるいは,対象物を拡大する道具(拡大鏡,顕微鏡等)を用いて形状等を認識し得るものであれば足りるのかは,意匠法の文言からは必ずしも明らかでない

ところで,意匠法の目的は,意匠の保護及び利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与することにある(同法1条)。この目的にかんがみると,微小な物品であっても,工業的に同一の形状等を備えた物品として設計し,製作することが可能な場合には,その意匠につき保護を与えるべきものであり,殊に,微小な物品についての成形技術,加工技術が発達し,精巧な物品が製作され,取引されているという現代社会の実情に照らすと,意匠法による保護を及ぼす必要性は高いということができる。

他方,意匠に係る物品の形状等が,当該物品が取引される通常の状態において,視覚によって認識され得ないときは,意匠を利用するものとはいい難いから,意匠法の上記目的に照らし,同法の保護は及ばないと考えられる。

そうすると,意匠に係る物品の取引に際して,当該物品の形状等を肉眼によって観察することが通常である場合には,肉眼によって認識することのできない形状等は 「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たらず意匠登録を受けることができないというべきである。しかし,意匠に係る物品の取引に際して,現物又はサンプル品を拡大鏡等により観察する,拡大写真や拡大図をカタログ,仕様書等に掲載するなどの方法によって,当該物品の形状等を拡大して観察することが通常である場合には,当該物品の形状等は,肉眼によって認識することができないとしても 「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たると解するのが相当である