【最判昭和48年04月20日】墜道管押抜工法事件

 しかしながら、特許権者から許諾による通常実施権の設定を受けても、その設定登録をする旨の約定が存しない限り、実施権者は、特許権者に対し、右権利の設定登録手続を請求することはできないものと解するのが相当である。その理由は、つぎのとおりである。

 すなわち、特許権の許諾による通常実施権は、専用実施権と異なり実施契約の締結のみによつて成立するものであり、その成立に当つて設定登録を必要とするものではなく、ただ、設定登録を経た通常実施権は、「その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる」(特許法九九条一項参照)ものとして、一種の排他的性格を有することとなるにすぎない。そして、通常実施権は、実施契約で定められた範囲内で成立するものであつて、許諾者は、通常実施権を設定するに当りこれに内容的、場所的、時間的制約を付することができることはもとより、同時に同内容の通常実施権を複数人に与えることもでき、また、実施契約に特段の定めが存しないかぎり、実施権を設定した後も自ら当該特許発明を実施することができるのである。これを実施権者側からみれば、許諾による通常実施権の設定を受けた者は、実施契約によつて定められた範囲内で当該特許発明を実施することができるが、その実施権を専有する訳ではなく、単に特許権者に対し右の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができる。許諾による通常実施権がこのような権利である以上、当然には前記のような排他的性格を有するということはできず、また右性格を具有しないとその目的を達しえないものではないから、実施契約に際し通常実施権に右性格を与え、所定の登録をするか否かは、関係当事者間において自由に定めうるところと解するのが相当であり、したがつて、実施権者は当然には特許権者に対し通常実施権につき設定登録手続をとるべきことを求めることはできないというべく、これを求めることができるのはその旨の特約がある場合に限られるというべきである。