【東京地判平成14年07月17日】ブラジャー事件

 まず,特許法は,発明者が特許を受ける権利を有するものとし(特許法29条1項柱書き。以下「法」という。),冒認出願に対しては拒絶査定をすべきものとしている(法49条6号)。また,冒認出願は先願とはされず(法29条の2括弧書き,法39条6項),新規性喪失の例外規定(法30条2号)を設けて,冒認出願がされても発明者等が特許出願をして特許権者となり得る余地を残し,発明者等の特許を受ける地位を一定の範囲で保護している。冒認出願者に対して特許権の設定登録がされた場合,その冒認出願は無効とされている(法123条1項6号)が,特許法上,発明者等が冒認者に対して特許権の返還請求権を有する旨の規定は置かれていない。さらに,特許権は,特許出願人(登録後は登録名義人となる。)を権利者として発生するものであり(法66条1項),たとえ,発明者等であったとしても,自己の名義で特許権の設定登録がされなければ,特許権を取得することはない。

 このような特許法の構造に鑑みると,特許法は,冒認出願をして特許権の設定登録を受けた場合に,当然には,発明者等から冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求める権利を認めているわけではないと解するのが相当である。 そうすると,原告が本件特許発明の真の発明者であり,被告が冒認者であるとしても,そのことから直ちに,原告の被告に対する本件特許権の移転登録手続請求を認めることはできない。