【東京地判昭和63年09月16日】POS実践マニュアル事件

 しかしながら、商標法二五条本文は、「商標権者は、指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する。」旨規定しているから、商標法三六条一項にいう商標権の侵害とは、右の登録商標の使用権の侵害を意味するものと解されるところ、他方、同法三条は、自己の業務に係る商品について使用をする商標については、(1)商品の普通名称、商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格又は生産、加工若しくは使用の方法、ありふれた氏名又は名称などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標、(2)慣用商標、(3)きわめて簡単でかつありふれた標章のみからなる商標、(4)その他需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標を除き、商標登録を受けることができる旨規定しており、右規定によれば、登録商標とは、このような要件に適合するものとして「商標登録を受けている商標」であつて、(同法二条二項)、本来、何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標、すなわち、出所表示機能を有する商標であることは明らかであり、したがつて、前記同法二五条本文にいう「登録商標の使用をする権利」とは、出所表示機能を有する商標の使用をする権利を意味するものであるから、出所表示機能を有しない商標の使用若しくは出所表示機能を有しない態様で表示されている商標の使用は、「登録商標の使用をする権利」には含まれないものと解するのが相当である。そうすると、このような商標の使用は、同法二五条本文に規定する登録商標の使用権を侵害するものということはできない。ま、このように解すべきことは、商標法一条が、「この法律は、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」旨規定している趣旨にも合致するものである。

 右認定の事実によると、被告標章は、いずれも単に書籍の内容を示す題号として被告書籍に表示されているものであつて、出所表示機能を有しない態様で被告書籍に表示されているものというべきであるから、被告標章の使用は、前説示に照らし、本件商標権を侵害するものということはできない