【東京高判平成09年07月16日】笛付きキャラメル事件

 パリ条約は、4条C(1)により、優先期間を実用新案については12か月、意匠については6か月と定める一方で、同条E(1)により、いずれかの同盟国において実用新案登録出願に基づく優先権を主張して意匠登録をした場合には、優先期間は意匠について定められた優先期間(すなわち6か月)とする旨を定め、これらの優先期間は最初の出願の日から開始するものとしている(同条C(2))が、本件の場合のように、第一国の実用新案登録出願に基づく優先権を主張して第二国に実用新案登録出願をした後、これを意匠登録出願に出願の変更した場合の優先期間については特段の規定を置いていない。

 しかし、同条E(1)の規定の趣旨は、同条C(1)が、第一国出願における出願が特許、実用新案、意匠、商標のいずれに係るものであるかによって、優先期間が定まることを原則としながらも、これに基づく優先権主張の効力を享受するものとしてなされた第二国での出願が意匠としての保護を求める出願である場合には、その優先期間は、同条C(1)に原則として定められている意匠についての優先期間とすることが相当であるとしたものと解される。この規定の趣旨からすると、優先権を主張してされた第二国への出願が当初は実用新案登録出願であっても、これを意匠登録出願に出願変更し、意匠として保護を求める出願とした以上、この出願が享受できる優先期間は、同条C(1)に原則として定められている意匠についての優先期間と解するのが相当である。

 このことからして、本件の出願変更に係る新たな意匠登録出願がもとの実用新案登録出願についての優先権主張の効力を引き継ぐためには、スペイン国(第一国)の実用新案登録出願から6か月以内にもとの実用新案登録出願がされていたことが必要であるというべきであり、原告がスペイン国の実用新案登録出願をしてから、もとの実用新案登録出願をするまでの期間が6か月を超えていた本件においては、出願変更に係る新たな意匠登録出願について、もとの実用新案登録出願についての優先権主張の効力が引き継がれるものとすることはできないといわなければならない。