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STAP細胞の拒絶理由は?

2014年11月05日 22:05

 STAP細胞の国際出願(PCTルート)が、国内移行されたようです。記事では、『今後、各国で審査に進んでも「信ぴょう性がない」と判断され、特許は認められない可能性が高い』と報じています。

 STAP細胞の再現実験が成功しない状況が続けば、いわゆる「未完成発明」としての拒絶理由が考えられます。「発明完成」の定義は、判例での論述が良いでしょう。

【最判昭和44年01月28日】完成発明の定義
その技術分野における通常の知識・経験をもつ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならない。


 それでは、拒絶理由として考えられる条文は何条でしょうか? 「未完成発明」に関しての規定は旧審査基準にはあったようですが、現行の審査基準にはありません。現行の実務では、36条4項、6項で処理されているようです。

第三十六条
4  前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一  経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
6  第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。


 しかし、現在、STAP細胞の存在の真偽についての追加実験がされていますが、結果が「真」か「偽」によって、根拠条文とすべき拒絶理由が変わってくるように(変えるべきだと)思います。存在が「真」であれば記載要件不備として36条4項・6項違反(49条4号)、存在が「偽」であれば29条柱書き違反(49条2号)と解するのが妥当だと思います。「発明」が完成していないのであれば、「36条の検討の余地はない」からです。

第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

 次に「出願当時に発明が完成していた」ことを立証することが必要となりますが、「出願後の実験結果で証明する」ことに問題は無いのでしょうか? この点に関しては、前掲の最高裁判例を使った論述が良いと思います。

【最判昭和44年01月28日】
しかし、発明が完成していたかどうかを出願時を基準として判断するとは、その出願当時において発明がすでに技術的に完成していたかどうかを判定することであつて、その出願当時判明している技術知識を基準としてその完成の有無を判定することではない。右の判断にあたつては、出願後に判明した事実であつても、それを資料とすることを許さないとする理由はない。


 最後に、存在が「真」として、記載不備を解消するための「実施例の追加」をした場合の、拒絶理由を考えてみましょう。 明細書等に、STAP細胞を再現できる実施例を追加すると、いわゆる「新規事項の追加違反(17条の2第3項、49条1号)」となります。

第十七条の二
3  第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。


 このように考えると、結局、拒絶理由は解消しないように思いますが、理研が国内移行を決めたのは、新規事項の追加違反を回避しつつ、記載不備を解消する措置の可能性があるための判断だと思われます。

 今後の「審査の過程」が楽しみですね。その意味でもSTAP細胞は存在して欲しいところです。

情報ソース
https://mainichi.jp/select/news/20141025k0000m040112000c.html

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